米山 陸の世界

2020年度

作品発表演奏会
 日時:2021年1月14日(木)
 会場:洗足学園 前田ホール

虧盈

かげていく月だに日毎満ち足りて
隈なき光り世を照らすなり

今年度の初詣に引いたおみくじにこのような歌が書かれていたのを思い出しました。
人生は月の満ち欠けのように良い時も悪い時もあるので、心を乱さず自他共に大切にしなさい、との旨でした。
昨今の混乱に喘いでいた私の心にこの歌は強く響き、擱いた筆を再び起こすための力となりました。
曲名の「虧盈(きえい)」は欠けることと満ちることの意味で、とりわけ月の満ち欠けや気運などの盛衰を指します。
旋律や調性などは緩慢に、時に急激に揺らぎ、不安定な中での着地点を探し続けます。
月の情景を描写した曲ではありませんが、不思議な美しさを持つ月のような雰囲気も感じていただけたら幸いです。
ちなみに、おみくじは中吉でした。

2019年度

作品発表演奏会
 日時:2020年1月9日(木)
 会場:洗足学園 前田ホール

儀式的トッカータ

この曲の指す「儀式」というのは、不特定で未知の民族による謎めいた祭礼のことである。「トッカータ」も時と場合により指すところは変わってくるが、この場合は同音連打や音形の反復を中心とした曲を指す。
打楽器は最も原始的な楽器の一つであろう。我々の先祖が文明を持った頃、あるいはそのずっと前から打楽器は存在したらしい。そういった血が残っているからなのか分からないが、太鼓の響きを体に受けると、妙な気分の高揚を感じる。動物としての本能を揺さぶられるような、野性的なエネルギーがじわじわと体のどこかに漲ってくる。そういった気分の高揚や緊張をダイレクトに刺激するのではなく、なんとなく、いつの間にか心が緊張しては弛緩する、未知の儀式的な雰囲気を音にしたいと考えた。混沌とした音組織は神聖さや呪術性を孕み、掴み所の少ないまま執拗に続いていく。
漠然とした愉悦を感じていただければ幸いである。