
邢 億(けい おく)
中国の湖北省出身。湖北師範⼤学⾳楽学部作曲科を卒業。現在、洗⾜学園⾳楽⼤学作曲コースで作曲と⾳楽理論を⼩⾕野謙⼀に師事。 湖北師範⼤学では⺠族⾳楽と映画⾳楽の作曲に取り組み、映画音楽や舞台、音楽劇、ゲーム音楽など様々なジャンルに楽曲を提供してきた。
2024年度
大学院 作曲専攻 作品発表演奏会
日時:2025年2月19日(水)
会場:洗足学園 前田ホール
この作品のテーマは「Streets」といいます。様々な理由から、この2年間で3回引っ越しをしました。新しい場所に到着するたびに、異なる心境を味わいました。 その異なる心境を音楽で表現したいと思ったのです。
1. Prelude
作品の冒頭では、ピアノで明確な五音音階を用いて、中国を出発する旅を描きました。これが最初に到着した場所を象徴しています。初めて日本の街道を歩いたとき、私の心は複雑でした。未来への憧れ、不安、興奮など、様々な感情が絶え間なく私を取り巻いていました。
2. Memories
第2楽章は、大学院に合格して新しい場所に引っ越したときの心境を表現しています。この場所は住宅地で、家々が密接していて道も狭いですが、暖かい雰囲気を感じられる場所でした。この期間、私はとても興奮していて、やる気に満ち溢れていました。そのため、この部分の音楽は非常に激しいものになっています。 さまざまな楽器の音符の掛け合いを通じてインスピレーションのひらめきを表現し ました。和声は英雄的な雰囲気を持たせ、ヴァイオリンの高音域を用いてこの緊張感と興奮を表しました。
3. Echoes
次に、学校の近くに引っ越しましたが、騒がしい環境からは離れた場所でした。この街道を歩くと、静けさと孤独をよく感じました。しかし、この時期は私にとって最も落ち込んだ時期でもあり、感情はジェットコースターのように、誇りを感じる瞬間もあれば、自己嫌悪に陥る瞬間もありました。それでも、自分自身の内面に向き合うことをより大切にした時期でした。このような感情を音楽で表現したいと強く思いました。 この感情を表現するために、哀愁を帯びたドリア旋法と明るさを持つリディア旋法をテーマにして内面の感情を描き出し、それによって印象主義的な雰囲気を醸し出したいです。
4. Present
最後に、学校から遠く離れた場所に引っ越しました。家の前の街道は高速道路と隣接していました。私はよくバルコニーで物思いにふけることがありました。冷たく孤独な環境でしたが、それでも生活に立ち向かうための十分な勇気を持ち続けていました。
録音・録画会 in Summer 2024
日時:2024年8月27日(火)
会場:シルバーマウンテン1F
作品の内容は、街灯の下で影が踊っているのを⾒つけたことを表現している。好奇⼼と不安を抱えながら近づくと、その神秘的な影が⾃分の影を引っ張って⼀緒に踊り始めた。⾃分の体も影に合わせて動き出した。
踊りが終わると、影は消え、⾃分はバランスを失って地⾯に倒れた。夢が覚めた前回の作品の柔らかい感情とは対照的に、今回はもっとリズム感を表現したいと思っている。これは、前期の授業で学んだ内容のまとめでもある。作品には、伊福部⽒の「SF交響ファンタジー第1番」を分析しながら得た作曲技術の理解が含まれている。五度⾳程を⼤胆に使⽤して危機感を表現したり、リズム感を重視するなどの技術だ。
リズムを研究する中で、フラメンコの作品や中国の京劇の「緊打慢唱」というリズムの使い⽅についても学んだ。これらの学びを今回の作品に取り⼊れ、リズムに対する⾃分の理解を表現したいと思っている。
編成には、2本のチェロを使うことにした。チェロの⾼⾳部分の繊細な感じと低⾳部分の安定感に魅了されたからだ。リズムを表現するには、⾼⾳と低⾳の両⽅を兼ね備えた楽器を使うのが⼀番だと思う。実際の演奏で、2本のチェロがどのように表現されるのかとても楽しみだ。
2023年度
大学院 作曲専攻 作品発表演奏会
日時:2024年2月20日(火)
会場:洗足学園 前田ホール
この作品は、私が昨年の雨季を観察し、感じたものからインスピレーションを得ています。作品は雨の表現を4つの段階に分け、異なる感覚をもたらす雨に基づいて、それぞれに異なる色彩を与えました。 これにより、異なる色彩の雨季を表現する音楽を通じて、雨に対する私の理解を表現したいと考えています。
パート1は「紅雨」です。インスピレーションは「梅の花が咲く時の雨」から来ています。紅梅は早春または晩冬に咲く花で、湿度の高い空気を好みます。しかし、花の時期には暴風雨を心配しています。 そのため紅梅は気候の変化に非常に敏感です。音楽の表現は非常に繊細で、音楽が始まるときには絶え間なく流れる雲の景色を表現し、雨がくると冬季の寒さがまだ去っていない様子を引き立てています。 第10小節からE長調で、花がゆっくりと咲いていく様子を表現したいと考えています。第25小節以降、私はミニマル・ミュージックの「フェイズのずれ」の手法を使って、綿綿と続く小雨の感覚を表現 し、徐々に消えていく様子を描きます。
パート2の「翠雨」は初夏の季節を表現しており、緑色は活力と新生の感覚を象徴しています。”新緑”という言葉はこの部分のインスピレーションの源です。この部分では雨の”雨滴感”を表現したい と考え、弦楽器のピチカートとピアノの対応を多く活用しています。音楽はEフラットメジャーに戻り、 和音の使用では小九の和音を使って雨の清冷感を表現しています。第59小節から音楽の緊張感が増しており、チェロとヴィオラを使って雨の感触を表現しています。同時に、”風”のテーマはピアノとヴァイオリンによって表現され、このセクションの感情に変化を与え、第三部分の出現を示唆しています。
パート3の「白骤雨」は秋季の大雨を示唆し、白い色は大雨によって引き起こされる水霧の景色から着想を得ています。この部分は第二部分のテーマを引き継ぎ、雷鳴を表現する緊張感のあるコードを強調します。雨の激しさを表現するため、この部分ではまず基本のリズムを破り、次にヴァイオリンとヴィオラの追いかけっこ、ピアノの速い走り、そしてチェロの高音域での旋律の緊張感があります。この部分はまた、全曲のクライマックスです。
パート4の「虹」は太陽光が空中の水滴に当たったときに現れる色を象徴し、私にとって最もビジュアルな景色だと考えています。そのため、明るさとよりリラックスした気分を表現するために大七のコードを使用し、音楽のリズムを遅くし、冒頭の和音を引用してゆっくりと音楽が終わりに向かうように しました。
この作品では、音楽の感情表現において速さの変化ではなく、リズムの変化に重点を置いてみました。 それだけでなく、私はラヴェルや吉松隆などの作曲家の作曲手法や和声を学ぶことで、これらの要素を私の作品に組み込みました。また、簡約音楽の技法も試して、自分のアイディアを取り入れて最終的にこの作品を完成させました。